※本記事は英語でもご覧頂けます:Six Tips for Working with Emerging Market Data
新興国・発展途上国の市場は、2040年までに購買力平価ベースで世界の国内総生産(GDP)の約70%を占め、2021年から2040年にかけての世界の消費者支出の伸びにおいては約3分の2を占めるようになると予想されており、これらの市場における消費財メーカーのビジネスチャンスは依然として大きいといえる。しかし、市場機会を定量化し、確たる事実に基づいた強力な戦略を構築することは、容易ではない。新興市場国のデータの調査・利用については、データの入手可能性やその品質など、多くの課題が伴う。
ユーロモニターインターナショナルがグローバルに実施する市場調査では、データの品質が最高水準であることを保証するために、6つの主要なガイドラインを順守している。本記事では、新興市場国のデータを取り扱うにあたり、我々が重視する6つのコツを紹介する。
1. データの品質を疑う
国家統計は、時代遅れの算出方法、テクノロジーの不足、政治的な偏りといった理由により、データの品質が疑わしいことがある。このことは、新興市場を査定し、リスクを軽減したいと考える企業にとって、時に意思決定プロセスを複雑化させ、不確実性をもたらすことになる。
国家統計のデータ品質問題の一例として、ナイジェリアのGDPが挙げられる。2013年、ナイジェリアは、GDPの基準を変更し、通信、映画、小売など、それまで報告されていなかった、または過少に報告されていた経済分野を新たに反映させて再計算した。これにより同国のGDPは90%増加し、アフリカ最大の経済大国となった。このように、新たな称号を得たナイジェリアだが、実際の経済状況は変わっていない。企業は新興市場国のデータを参照する際、その品質を疑い、人口構成や経済状況が似ている国と比較するなどし、その国のパフォーマンスをより正確に判断することが大切だ。そのためにも、多国間で比較可能なデータを有することが重要である。
複数の異なるデータセットのうち、どれを使用するかを決めなければならない場合もある。例えば、中国の国家統計局は移民データを報告していない。とはいえ、中国国家統計局からは人口、出生数、死亡者数の統計が入手できるので、純移動数は簡単に計算できる。しかし、こうした計算には、違法な移民の数が反映されていないため、疑わしいほど低い数値が算出される。他国の移民データを考慮した国際連合(UN)によると、中国の純移動数はもっと高いことが推察される。市場調査会社を活用することで、最高水準の品質と信ぴょう性を備えたデータセットへのアクセスが保証されるのである。
中国の人口統計データ:2015-2020年
2. 代用データの活用を考える
新興市場国はデータの入手性が低く、探しているデータが入手できない(存在しない)こともしばしある。そのような場合、市場状況を把握するための手段として、代替データを活用することは検討に値する。
例えば、耐久消費財の所有率、雇用や都市化、教育に関するデータは、中間所得者層の人口規模を把握しようとする際に、所得データの良い代用となる。また、最低限の基本的な衛生サービスを利用している人口の割合が低いことや、都市部においてスラムに住んでいる人口の割合が高いことは、貧困ライン以下で生活している消費者が多いことを示唆する。年間可処分所得は、GDPや消費者支出を用いて概算することができる。他にも、ブロードバンドインターネットの加入者数やネットワークのカバー率といったデータは、ブロードバンドインターネットにアクセスできる世帯の割合を示す指標となり得る。
データは、不足している数字を補完するための構成要素としても利用することができる。例えば、気候条件の変化や未だかつてないほどの猛暑によって家庭でのエアコン需要が高まっている中、エアコンの所有率に関するデータは大きく不足している。そうした中でも、輸入量や市場規模、最高気温など、高品質で入手しやすいデータを用いることで、より信頼性の高い推定値を算出することが可能となる。このような代替の指標を活用することで、市場状況をより正確に把握することができ、最新のトレンドを的確に捉えることができるのである。
3. データの鮮度を意識する
家計や所得に関する多くの国家統計の基礎となる全国調査は、しばし散発的に実施される。このことは、特に急速に成長し進化を続ける新興市場国に関する情報を得ようとする場合には問題になりかねない。2015年の市場状況は、2019年には極端に異なっているかもしれない。こういった場合も、類似市場国とのベンチマーキングや、関連するデータセットとの比較を行うことで、データを推定することができる。例えば、X国における教育水準別人口に関する最新のデータがない場合は、比較的に入手しやすい就学率や修了率、近隣諸国の教育水準別人口の増加率を調べることで対処することが可能だ。また、産業データの主要な情報ソースである産業連関表は、通常3年遅れで発行されるが、こうしたギャップを埋めるために、様々な最新の指標が使用される。これらのアプローチはユーロモニターでも採用されている。当社のアナリストは、包括的かつタイムリーなデータセットを作成するために多くの時間と労力を注いで独自の推計を行っている。
4. より詳細に深掘りする
新興市場国では、国内地域間の格差が極端に大きい場合がある。市場参入を決定するために新興市場国で調査を実施する場合、国全体の数値ではなく、都市別、地域別のデータや都市部のデータを探すことも検討に値するだろう。ユーロモニターは、このように地理的にブレークダウンされたデータを提供しており、都市レベルのデータや、都市部および地方部ごとの比率を確認することができる。国内の地域格差が大きい例をいくつか挙げると、アンゴラ、ブラジル、南アフリカでは、2020年の一人当たりの都市部の消費者支出は、地方部の支出の2倍であった。ロシアのモスクワとサンクトペテルブルクでは、2020年の一人当たりの消費者支出が同国平均の1.6倍と1.2倍であった。
主要国における一人当たりの消費者支出:都市部と地方部の差(2020年)
Source: Euromonitor International from national statistics
ロシアにおける一人当たりの消費者支出:主要都市と同国平均の差(2020年)
Source: Euromonitor International from national statistics
5. 定義の重要性を忘れない
複数か国をまたいだデータ比較を行う場合、対象国の経済水準に関わらず、定義の統一性は常に課題であるが、この問題は、新興市場国では特に大きくなる。例えば、「洗濯機の所有率」という一見単純なデータタイプでも、電気を使用しない手動の洗濯機を含むのか、含まないのか、など、国によって異なる定義が存在する。「エアーコンディショナー」はシンプルな扇風機や換気扇を含む場合もあるし、「タブレット」は電子書籍リーダーを含むこともある。「モーターバイク」の中に電気自転車・モペットが含まれている場合もあるし、「調理機(cookers)」の中で炊飯器とパン焼き機の両方を数えているデータもあるなど、国によってまちまちである。これらの所有率のデータは、企業が各国市場の潜在性や飽和性を考えるうえで、極めて重要である。ユーロモニターでは、企業が国をまたいで比較し分析できるように、標準化されたデータを作成するため、各データの定義を綿密に検討している。
ある調査プロジェクトを実施していた際、いくつかの新興国では、トイレのある世帯の割合が驚くほど高かった。そこで定義や調査手法を確認すると、それらの国々の調査では、家庭内にトイレやシャワーの機能を果たすものがあれば、全て「トイレがある」とし、バケツでさえもトイレと見なしてカウントしていたことが判明した。しかし、先進国市場では、トイレとは総じて「水道水によって排泄物を流す機能が付いた水洗トイレ」を指す言葉である。以下のベトナムとカンボジアにおけるトイレ設備の詳細データを見ると、その中に何が含まれているかが判る。こうしたことを踏まえ、ユーロモニターでは、自社の定義と合致した統計を選択しデータセットを構築している。当社は、このようなデューデリジェンスを行うことで、正確かつ国をまたいで比較可能なデータを顧客企業に提供し、確固たる情報に基づいた意思決定を行えるようにサポートしている。
ベトナムにおけるトイレ設備状況別世帯数の割合(2018年)
Source: Vietnam’s Household Living Standards Survey, 2018
カンボジアにおけるトイレ設備状況別世帯数の割合(2019年)
Source: Cambodia’s General Population Census, 2019
6. 実用性を考慮する
国の統計局の中には、PDFのレポートやチャートでしかデータを出版しないところもあり、特殊な変換ソフトウェアやスクレイピング機能をもってしても、それらのデータを統計ソフトに入力することは不可能か、または膨大な時間がかかることがある。PDF内のデータは検索することが難しい一方、統計局のウェブサイトはしばし重く、探しているデータにたどり着くことができなかったり、エラーメッセージも少なくない。また、言語の壁もある。この問題は、翻訳ソフトによって多少軽減されるが、それでも厳密な定義を正確に理解することは難しい。国によっては印刷物でのみ国内統計を出版したり、または国内の住民だけに電子データのコピーを提供しているところもある。ユーロモニターは、多くの新興市場国をカバーする幅広いアナリストのネットワークを有していることから、各国における出版物や統計情報をそれぞれの国内で収集することができるのである。
現在、データの価値はかつてないほど高まっている。正しいデータを持ち、それを最大限に活用する方法を知っていれば、情報に基づいた大胆な意思決定を行い、ビジネスを成功に導くことができるだろう。新興市場国データを取り巻く問題点は、前述のように明らかな場合が多い。ユーロモニターは新興市場国のデータに精通しており、データの信頼性、品質、相互比較可能性を確保し、そうした新興市場国データにまつわる課題に対するサポートを提供している。ユーロモニターの新興市場データに関するお問い合わせや、Passportデータベースのデモのリクエストはこちらからどうぞ。
(翻訳:横山雅子)