EC、Eコマース、オンラインショッピング、ネット通販。いまだに様々な呼び名があるが、いずれもインターネット経由で買い物をすることを指す言葉だ。例えばインターネット検索することを「ググる」、オンラインビデオ通話することを「Zoomする」と一般化して言うのに対して、「Eコマる」「Amazonする」「楽天する」などとは言わないのは興味深い。それだけ千差万別な世界なのだろう。
日本EC市場の成長と主要プレイヤー
日本の小売市場におけるEコマースは、どう推移してきたのだろうか。総小売販売額におけるEコマースの占める割合は、堅調に成長してきた。2012年と2013年に二桁の成長率を記録し、2016年には10%を超えた(*1)。スマホの世帯所有率と重ねてみるとわかりやすい。2008年に日本で初めてiPhoneが発売され、2011年にはガラケーの売上台数をスマホが上回った(*2)。スマホの成長を追うように、小売市場においてEコマースが占める割合が増えてきた。2013年以降、再び二桁成長を見せたのは2020年、新型コロナによって巣籠り消費が増加した年であった(*1)。消費者が右往左往する中、Eコマースはインフラとしての地位を確立し、今後もその存在感はますます高まると予測される(*1)。
*1: ユーロモニターのRetailデータによる。
*2: ユーロモニターのConsumer Electronicsデータによる。
日本国内のEコマース市場にはどのようなプレイヤーがいるだろうか。圧倒的に強いのは楽天とAmazonだ。他にも、アパレルならZOZOTOWN、家電ならヨドバシカメラなどもある。主に自社サイトをEコマースの主力とするユニクロやニトリ、また小売総合グループのイオンやセブン&アイもEコマースサイトを展開している。巨大な総合プラットフォーム、製品分野に特化したプラットフォーム、あるいは自社サイトなど、一概にEコマースと言ってもその販売チャネルの中には複数のサブチャネルがある。
暗中模索に陥りやすいEC市場分析
製品メーカーの立場に立つと、管理も煩雑だろうが、どのように市場の全体像をつかむのかも難しそうだ。リアルの店舗販売ならば、短期の目線にはPOSが有効だ。中長期の視点を得るならば、より大局観的な市場調査のデータが必須である。そうしたデータを作るのは、市場を網羅するPOSレジやその膨大なデータを見やすい数字に落とし込む各社のアルゴリズムであり、また、デスクリサーチや関係者への聞き取り取材を重ねて、市場全体が進む方向性をとらえた着眼大局なデータを構築する市場調査会社たちである。
しかし、Eコマースの場合はどうだろうか。ECプラットフォーマーは、自らの持つデータを、有料であっても完全開示はしない。ブランドAは、そこで販売された自社のデータを知ることはできても、競合ブランドであるB・Cのデータは知りえない。これが実店舗販売のデータと大きく異なるところだ。全体像が極めて見えにくく、暗中模索に陥りやすい。店舗販売に置き換えて考えてみると、例えば、化粧品メーカーがドラッグストアチェーンDの自社販売情報だけで販売戦略を練るということだ。他にも競合メーカーがあり、同じくらい大きなドラッグストア、スーパー、コンビニ、ディスカウントストア、百貨店もあるというのに。戦略を立てようにも材料が少なすぎる。それがEコマースで広く商品を売るという世界の、現状だ。
オンライン売上を正確に計測し、当て推量を止める
つまり、Eコマースは今後も極めて重要な販売チャネルであり続け、その存在感はますます大きくなる一方で、多くの製品メーカーは、雲をつかむような戦い方を強いられている。また、Eコマース市場で製品を探す消費者の選択肢は、製品のバラエティおよび購入先サイトの両方の意味で、未だかつてないほど増えている。こうした五里霧中ともいえるEコマースの世界に、ユーロモニターは分析のための地図を用意した。
ユーロモニターの新しいデータベースである「E-Commerce」。同データベースの開発・運用にあたり、同社が採用する材料/手法は主に三つ。電子レシート、クリックストリームパネル、ウェブスクレーピングだ。
- 電子レシート:電子的に発行される購入明細
- クリックストリームパネル:ウェブブラウザ上の訪問履歴
- ウェブスクレーピング:Eコマースサイトに表示されている価格や、表示されていることのある購入点数の変化を抽出
電子レシートとクリックストリームパネルについては、いずれも正当な手続きを経て承諾を受け、匿名化された情報を利用している。いずれも何百万件という数を、ウェブスクレーピングデータと合わせ、処理している。その中では、ユーロモニターのデータベースであるPassportの分類手法を用いて、各国のEコマースの総市場規模の80%以上をカバーできるようにしながら、市場規模や会社シェア、ブランドシェアを出せるように処理している。アルゴリズムの学習には、アナリストの知見や時間も多く注がれている。そうして出てきた情報を、決算資料などの世の中の各種情報と突き合わせ、調整・改善を繰り返している。こう書くとシンプルな仕組みに思えるかもしれないが、森羅万象のSKUと購買データを整理するためのナレッジ・ノウハウ・スキルは一朝一夕で獲得できるものではない。
中国、韓国、日本 ‐ 世界のEC市場でも存在感を放つアジア3か国
2023年4月にこのサービスが始まった際は、欧米の国々中心だったのだが、この10月に東アジアの三か国、中国・韓国・日本が加わり、より価値のあるサービスになった。中国は2018年からアメリカを抜いて世界最大の小売Eコマース市場である。また、韓国も米国、英国に次ぐ世界第4位のEコマース市場であり、同国の総小売販売額のうち、Eコマースの占める割合が世界で唯一4割を越えるEコマース先進国である。日本もやはり、小売Eコマース世界5番目の主要市場であり、小売販売額全体では世界3位の消費大国だ(*3)。これら世界の主要EC市場15カ国において、各製品カテゴリーごとにどのブランドが売れているのか、どのECサイトで売れているのか、季節ごとの売上の変動はどうなっているのか、EC販売戦略が優れているのはどの競合ブランドか。
*3: ユーロモニターのRetailデータによる。2022年の市場規模(米ドル、Fixed 2022 exchange rates)。
これらのビジネス課題に応えるユーロモニターのE-Commerceデータベース。ご関心がある方は、弊社 <info-japan@euromonitor.com> までお問い合わせいただきたい。