あらゆる企業が、事業を成長させるための方法を日々模索している。しかし、地政学的なリスク、市場の激しい変動や見通しの不透明性など、経営者は様々な懸念事項に対処しなくてはならない。
つまり、事業を成功に導くには、継続的に成長させるため、どのような戦略を取るべきかを見極める能力にかかっている、と言っても過言ではないだろう。今回は、その見極めを助ける分析手法を紹介していく。
本題に入る前に念を押しておきたいのは、最初に自社ビジネスの方向性、所有するリソース、強み、そしてケイパビリティを深く理解することがいかに重要か、ということだ。データ主導で意思決定を行うにあたり、これらを可視化しておくことが鍵となる。その上で、参入予定の市場を評価し、ターゲット消費者のニーズを把握し、彼らの需要が現在、どのように満たされているかを理解するべきである。
それでは、次の成長機会をつかむために、これらの要因をどのように分析するべきなのかを解説していく。
市場機会を発見する8つの分析手法
1. 消費者セグメンテーションと行動分析
最も効果的に正しいターゲット層を絞り込むには、消費者を特徴ごとにセグメント(グループ化)することだ。
消費者セグメントは、人口統計学的変数(年齢、性別、学歴、収入など)、地理的変数(都市、国、地域)、行動的変数(態度、ライフスタイルなど)ごとに分割して作成することができる。
潜在顧客数の推計には、人口動態と地理的データが有効だ。 例えば、ベビーフードメーカーに必要な指標は、自社製品が販売されている国の乳幼児人口である。家電メーカーであれば、流通を拡大する前に、まずは新規参入予定市場の世帯数を把握した方が良いだろう。
同様に、行動変数も考慮すべき指標であり、これらの指数は消費者の製品、サービスの購買動機を特定するのに役に立つ。価格やポジショニングはもちろんのこと、購入にともなう意志決定は消費者のライフスタイル、感情、価値観によって大きく左右されるため、行動セグメンテーションは企業のマーケティング活動を調整するうえでの要となる。
また、短期的な消費者トレンドの変化とあわせてメガトレンドのような長期的な消費者行動のシフトをモニターし、彼らの優先事項がどのように進化しているかを理解する必要もある。ここ数年の高インフレは、慎重で意識的な消費行動へのシフトを促した。しかし同時に、買い控えや何かしら努力をおこなった自分に対して、ご褒美をあげようとする消費者は一定数存在している。
このような消費行動の高まりを受け、例えば大手食品メーカーは、プレミアムスナックの分野に注力し、手が届くぜいたく感を提供することで存在感を強めている。最近の事例としては、モンデリーズ(Mondelez)が発売したプレミアム商品「トブラローネ・トリュフ(Toblerone Truffles)」、マース(Mars)の高級チョコレートブランド「ホテルショコラ(Hotel Chocolat)」の買収、高級セグメントを狙うネスレ(Nestlé)によるブラジルのチョコレート会社Grupo CRMの買収などが挙げられる。
このように、ターゲット消費者セグメントを特定し、最適なメッセージング、マーケティング、新商品開発を企画、改善できる企業が、より効率的に売り上げを伸ばすことができるだろう。
2. 購買状況分析
単純なバイヤージャーニーなど存在しない。消費者が何時、何処で、何を購入するかは、様々な要因によって常に変化する企業が消費者の意思決定に影響を与えるには、彼らの購買パターンを理解しなければならない。下記の質問に答えることができるかチェックしていただきたい。
- あなたの商品やサービスが顧客に必要とされるのはどのような時か?
- 顧客はあなたの商品をどこで購入しているのか?
- 顧客が使用する支払い方法は?
このように、流通経路や支払い方法から購買パターンを明らかにすることで、初めて適切なロケーションで商品を販売することができるようになる。
小売業を例にとって考えてみよう。今日、多くの消費者がスピードと利便性を求めるようになり、その結果、食料品業界は大きく変貌した。過去5年間、世界のディスカウントストアとコンビニエンスストアの店舗数は、それぞれ28%と17%増加した一方、ハイパーマーケットの数は2%減少している。
台頭著しいライブストリーミングeコマースも注目すべきチャネルだ。ユーロモニターの予測では、ライブストリーミングeコマースは、2024年には中国での売上が4500億ドルを超え、同国のEコマース売上全体の14.5%を占めることが見込まれており、米国でも着実に成長していている。
購買パターンは、顧客について多くのことを教えてくれる。このようなチャネルシフトを明確に分析することで、流通経路の優先順位付けが的確にできるようになるだろう。
3. 直接的競合分析
直接的な競合他社とは、自社と同様の製品やサービスを提供している企業のことを言う。例えば、Coca-ColaとPepsi、NetflixとHuluなどが好例だ。
自社が現在、市場でどの立ち位置にいるのか確認するためには、包括的な調査を実施することがよいだろう。それによって、主要プレーヤーが市場の中で自分たちの製品やサービスをどのようにポジショニングし、競争力を維持しているかを知ることができる。合わせて、それらの競合企業とあなたの会社の製品・サービスを比較してみよう手始めに、次の質問を考えていただきたい。
- 台頭しているブランドとその理由は?
- そのブランドのバリュープロポジションは何か?
- 彼らが実施しているマーケティング施策とは?
- 自社にはどのような競争優位性があるのか?
世界最大の家具量販店であるIKEAは2022年、チリに初参入し、同国1号店をオープンした。同社がチリへの進出を決定する前に、同国内で74店舗を展開しているホームセンターSodimacをはじめとした競合他社に関する調査を実施したことは想像に難くない。
このように、競合他社について、業績から製品ポートフォリオ、新製品開発(NPD)、戦略と方向性にいたるまで、総合的に調査し理解することは、自社の成長機会を特定するためにも極めて有効的である。
4. 間接的競合分析
間接的競合とは、製品・サービスとは異なるものの、類似した消費者層から生まれる同じニーズをターゲットにしている製品・サービスのことをいう。Coca ColaとTropicana、NetflixとMarvel Comicsなどがその数例である。
間接的競合にあたる業界やカテゴリーの企業を分析することが、自社の製品・サービスの改善を促し、新た顧客層を囲い込むことに繋がる。
旅行業界を例に、このことを確認してみよう。航空会社たちが、他の交通手段からシェアを奪う機会探しているとしよう。下記の質問に対する回答が、ホワイトスペースの特定に繋がる。
- バスや電車で長距離を移動する人はどれくらいいるのか?
- 最も需要の高い路線は?
- 旅行者は乗車券にいくら支払っているのか?
- 長距離バスや列車の乗車率は?
- 現在バスや列車を利用している旅行者に、代わりに飛行機を利用してもらうには、何を伝えるべきか?
同様に、チョコレートスプレッドメーカーであれば、ジャム、蜂蜜、ピーナッツバターの売上を調査し、スイートスプレッド市場全体におけるそれぞれのポジショニングを理解する必要があるだろう。
隣接領域の中で見られる製品特性にも、市場機会に関する洞察を得ることができる。例えば、近年プロテイン入りスナックバーの人気が高まりを見せているが、スナックバーと同様に間食に購入されることが多いヨーグルト製品にも、高プロテインタイプの製品がみられるようになっている。このように、間接的競合に該当する企業・ブランドの新製品開発を理解していることで、自社製品のイノベーションをより研ぎ澄ますことができるようになる。
直接的な競合企業の分析と同様、間接的競合の商品価格も知っておかなければならない。食用油市場を例に取ると、近年、ひまわり油の価格が高騰している。これは、他の種類の食用油メーカーにとっては、価格戦略を見直し、利益率を改善する好機が訪れていることを意味している。
上記のような分析は、より幅広い顧客層を開拓し、間接的競合に対する自社の優位性を明確に理解するために有効である。
5. 補完製品・サービス分析
企業は、自社のビジネスにとっての補完製品・サービスの売上動向も追跡、把握するべきだ。
例えば、ピーナッツバターやバターのブランドは、パンやホットケーキの市場動向を分析しているべきである。同様に、トマトソースのメーカーは、パスタ市場のトレンドを把握しておく必要があるだろう。
こうした補完製品に関する調査を実施することはは、以下のような場面におけるアクションを後押しする役に立つ:
- 顧客が自社製品を、どのような他製品・サービスと併せて使用しているかを理解する
- 新たなニーズ、機会、脅威を発見する
- 新商品の開発や商品の再設計をおこなう
- より効率的に販売する
例えば、あるカフェポッドのメーカー企業が、小売販路の拡大を画策しているとしよう。その場合、NespressoやDolce Gustoといったポッドコーヒーマシンの販売データから、市場の可能性と需要を推計することができる。
このように、投資意思決定をおこなう際には、自社ビジネスを補完する製品分野の動向にも着目する必要がある。補完製品・サービスに関する情報は、イノベーション戦略および市場シェア拡大戦略を策定するうえで欠かせない。
6. 多角化分析
現在の市場において、自社がすでに成熟期に入っているのであれば、多角化分析によって、今後、自社がさらなる成長を遂げるためには何をすべきか、どの領域に入るべきか、を特定することができる。しかし、新しいカテゴリーへの参入を成功させるには、適切なスキル、リソース、そしてビジネスモデルが不可欠である。
まず、自社の商品によって恩恵を受ける可能性が高いと思われる分野を複数分析する。次に、成長の可能性を数値化し、各分野の競合状況を把握する。このとき調べるべき基本的な情報は、市場規模、シェア、成長率、単価、一人当たりの売上高、ブランドのポジショニングなどである。投資意思決定をおこなう前に、以下の質問に答えられるか確認してみよう。
- 他領域に参入するための生産能力および設備があるか?
- 他業界に適用可能なリソースがあり、スケールメリットを得ることができるか?
- 多角化することでブランドの評判が落ちないかどうか、新しい業界では新しいブランドを使うべきか否か?
- 潜在的な利益がリスクを上回ることができるか?
イギリスのeasyGroupは、長期的な事業成長のために多角化戦略を採用している投資会社である。まず格安航空会easyJetを設立したあと、そのビジネスモデルをFMCG、エンターテイメント、eコマース、テクノロジーなど、他業界にも拡大した。さらにeasyJetの競合にもなるeasyBusやeasyCarを立ち上げ、消費者に様々な旅行の選択肢を提供すると同時に、新たな収益源の確保に成功している。
多角化戦略を上手に取り入れ実行すれば、消費者ニーズの変化に合わせて自社が提供する製品・サービスも進化することにつながり、より多くの顧客の囲い込み、そして安定した収入と需要の確保につながるだろう。
7. 海外市場分析
成熟市場、飽和市場を主戦場として事業を展開する企業が、更なる成長を遂げるためには、海外市場参入が不可欠といえ、日本企業の多くがこの課題に直面しているといえよう。
地域間の経済格差や現地の習慣などにより、国によって成長のペースは異なる。各国の一人当たり消費量、消費額の推移は、その製品のライフサイクルの成熟度を示す指標となる。また、 市場規模や競合状況を理解することは、その市場におけるビジネスの潜在性を測るうえで欠かせない。
例えば、西欧や北米のような先進地域の国々では、プライベートブランドの消費財の普及率が高いというデータがあるが、これら消費財製品が低価格帯にあることを考えると、新興市場においてもプライベートブランドが成長できる可能性を示唆している。
新市場に参入する際は、事前にまず現地の文化、規制、競合状況を入念に調べる必要がある。以下の質問の回答を得ることが、新市場進出の意思決定をするにあたり参考となる:
- 現地の嗜好や法規制に対して、自社の製品をどのように適応させる必要があるか?
- 新しい市場での主な競争相手はどの企業か?
- 自社製品にとって、需要が高まる季節や地域の行事はあるか?
海外進出を計画する際には、まずこれらの質問に答えられるかを確認しよう。
8. 環境分析
国際関係、科学的発展、規制、環境変化など、事業に影響を与えうる外部要因の分析も欠かせない。PEST(政治、経済、社会、技術)分析も有効な手段の一つだ。
また、将来的に起こりうる経済シナリオを評価し、潜在的な混乱やリスクに備える計画も立てておくべきである。これらの要素を慎重に考慮することが、より正確に市場の潜在力を見極め、競合他社に打ち勝つための戦略の策定につながる。
ここ最近、あらゆる業界の企業にとっての最重要事項に挙げられるのが生成AIだ。ユーロモニターが2023年に実施した調査によると、ビジネスプロフェッショナルの49%が、「生成AIが顧客体験の改善のために、生成AIがデータ分析により、より良い購買提案を作成するようになることを期待している」、と回答した。企業の成長のためには、こうした新技術の導入は欠かせないだろう。
科学的な進歩も、ビジネスの成長に新たな機会をもたらす可能性がある。世界最大の加工食肉市場である米国、そしてシンガポールでは、人間用の培養鶏肉が承認されているが、これは、代替肉市場に大きな影響をもたらすかもしれない。
規制の枠組みの変化もビジネスに大きな影響を与える要因となる。このような規制の変化には、先手を打って対処しておくことで、効率よく新しいビジネスオペテーションを回すことにつながる。例えば、メキシコ政府は、カロリー、ナトリウム、砂糖、飽和脂肪酸を多く含む製品に、黒のラベルを表示することを企業に義務付けた。これは一部の食品・飲料ブランドにとってはマイナスに働くかもしれないが、より健康的な代替品に投資する企業にとっては、利益を獲得できるチャンスが生まれることを意味する。
外部環境分析は、継続的に行われるべきである。外的要因は日々変化するものであるため、変動が激しい環境で弾力性を維持するには、こうした調査を定期的に実施することが効果的だ。
次のステップとは
本文で説明してきた8種類の分析を組み合わせることで、ビジネスチャンスを総合的に捉え、長期的な戦略的事業計画を策定することが可能となる。
事業機会を特定したら、速やかにバリュープロポジションを確立し、商品化にあたってのコスト、収益、キャッシュフロー、資金調達の必要性を見積もることが必要となる。
覚えておくべきは、自社が特定した市場機会が、必ずしもすべて成功するとは限らないということである。そのため、企業は新しい市場に進出したり、既存製品に変更を加えたりするにあたり、まずはこれらの調査を実施することで、リスクを最小化することができるだろう。
さて、次の市場機会を見つける準備はできましたか?ビジネス戦略に必要な市場データや分析、インサイトが必要な際は、ユーロモニターにご相談ください。